松たか子、“やりたいか”ではなく“挑戦するべきかどうか” 大切にする仕事選びのスタンス

エンタメ
舞台『パ・ラパパンパン』松たか子インタビュー 20210925実施
松たか子  クランクイン! 写真:高野広美

 演出・松尾スズキと、11月1日にスタートするNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』脚本家でもある藤本有紀が舞台で初タッグを組む。その名も『パ・ラパパンパン』。「鳴かず飛ばずのティーンズ小説家」として主演を務めるのは、なんと松たか子だ。4月期の主演ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)の熱狂を今も引きずるファンが多い中、本作ではいったいどんな顔を見せてくれるのか。インタビューを敢行した。

◆舞台でやる難しさを想像しドキドキ

 本作は、現実と物語が交錯するファンタジックなミステリーコメディー。鳴かず飛ばずのティーン向け小説家が、つい雰囲気に流され、「次は本格ミステリーを書く!」と宣言してしまう。無理やりひねり出したのは、19世紀イギリスのクリスマスイブを舞台にした欠陥だらけの物語。本人はアガサ・クリスティーばりの傑作が書けたと満悦し、久しぶりの安眠を得ようとするが、深夜にハタと気づいて飛び起きる。現実と小説の世界が交差しながら物語が進んでいく中、作家自らが事件の真相を突き止めるため、そして“彼女自身の物語”を完結させるために奔走するー。共演には神木隆之介、大東駿介、皆川猿時、早見あかり、筒井真理子、坂井真紀、小日向文世ら実力派が顔をそろえる。

――『パ・ラパパンパン』のオファーを受けたときに、どんなイメージを抱きましたか。

松:松尾(スズキ)さんではなく、藤本有紀さんが台本を書くという、松尾さんにとっての新たな挑戦の場所に呼んでもらえたのはすごくうれしいですし、光栄です。内容は全く想像がつかず、台本を読むまでは何も分からない状態でした。読んでからも、舞台でこれをやるという難しさを想像し、ドキドキしていました。

――舞台でやる難しさというと?

松:例えば、謎解きタイムになると、みんなが大集合していくんですよ。それを舞台でやると、場面はいろいろ変わっても、どうしてもワンシチュエーションに近い密室劇のような、決まった画になるんです。そうした中で、全員集合して喋って、役割を繋げていくというのはあまりやったことのない世界だったので、難しいな、と。脚本の印象は誤解を恐れずに言うと、「軽やかだな」と。テンポもそうですが、一瞬で何かが消えるとか黒焦げになるといった大変なことをさらっと書いているので、なかなか思い切りの良い人だなと思いました(笑)。でも、「松尾さんなら」という信頼関係があって、書かれたものだと思います。

◆“演出家”松尾スズキと初タッグ

――松尾スズキさんとは舞台『世界は一人』(2019年)での共演以来ですね。

松:『世界は一人』では松尾さんは主役で、演出家の岩井秀人さんによって、ボロボロになっていく様子を見ながら乗り切った公演だったので、“一緒に戦った”感がありますね(笑)。その一方で、どこか「演出家が2人いる!」みたいな感覚もあって、松尾さんはどう見ているんだろうという緊張感もありました。今回は初めて舞台の演出家と俳優としてご一緒できるのが本当に楽しみで、「あっ、松尾さんが演出家だ」と感じる毎日で、なんだか面白いです。

――演出家としてご一緒してみて、改めてどんな印象を抱きましたか。

松:松尾さんは、おっしゃることはすごくシンプルで、決して難しいことを要求する感じはしないんですが、求め方や稽古のときの頭の回転、スピード感がすごい。じっくり考えているようで、瞬間、瞬間で的確な指示を出されるというか。

――頭の回転の速さ、スピード感というと、松さんのイメージにも近いです。

松:私は頭の回転は速くないですね。ただせっかちなだけで(笑)。「速すぎる」と止められたり、「行け」と言われたりしながら生きています(笑)。そのあたりを松尾さんは好きにさせてくれている気はします。感情の表現も抑えどころの指導がすごく面白く、楽しくなっていっちゃうところを「ちょっと静かに言ってみて」と言われ、やってみると、すごく面白いんですよ。ちなみに、実は松尾さんと宮藤(官九郎)さん、阿部(サダヲ)さん全員の奥さん役をしたことがあるというのが、私の自慢なんです。さらに今回、松尾さんに演出してもらって、一つ一つ夢が叶っていく感じですね(笑)。

――作家と編集者として相棒となる神木隆之介さんの印象はいかがですか。

松:神木君とはほぼ初めてで、すごく頼もしいですが、彼は松尾さん演出の舞台『キレイ』に続いて今回が2本目なんですよね。(神木に対しては)ほとんどの人がもっと経験しているイメージを持つと思いますし、実際、「神木君はもう何でも経験してきているでしょ」と言われ飽きているんだろうなと、隣にいながら時々思います。私は「こうしてみようか」などと言うタイプでは全くないので、たぶん彼には物足りないと思いますが、「とりあえずやってみるという人もいるんだよ」ということはなんとなく伝わっているかと(笑)。

◆公演中は「変わったことはしない」 ウォーミングアップにぴったりの曲も告白

――公演中のルーティンはありますか。

松:ひたすら寝て食べて、公演して帰って、変わったことをしないことですかね。変わったことをするとそれに対応する体力も使うから、なるべく自分が気持ちよくいられるように、あまり無理せずというか。落ち着くのが楽屋だったり劇場だったりするので、早めに現場に入り、お裁縫が好きなので、自宅にいるとき余り布でちまちまとチクチク何か作って、楽屋に置いたりしていますね(笑)。無心になれる感じが好きなので。

――今回の作品の稽古について、松さんが「リトル・ドラマー・ボーイ(※クリスマスソングのスタンダード)を頭の中で鳴らしながら」とコメントされていて、思わず『大豆田とわ子と三人の元夫』を思い出しました。大豆田とわ子はよく鼻歌を歌っていましたが、松さんご自身、普段から鼻唄を歌ったり、頭の中で曲が流れたりしていることが多いですか。

松:ウォーミングアップのときに鼻唄歌いながら走ったりするのは、そういえば好きですかね。アップのときにすごく合う、地声と裏声があるちょうどいい具合の曲がいくつかあるんですよ(笑)。例えば秦基博さんの『鱗』。裏声もあって、ちょっと飛ぶ音で…。『アナと雪の女王』はアップにはとても向かない。あれはアップというより、むしろ歌うと消耗してそこで終わっちゃう曲ですから(笑)。

◆“コミュニケーションを諦めたくない”大豆田とわ子に共感

――映画、アニメの声優、舞台とさまざまなお仕事をされていますが、お仕事を選ぶ基準として大切にされていることはありますか。

松:「基準」というとおこがましいんですが、「松たか子」という名前をもらってお仕事させていただいている中で、松たか子という人にとってやるべきことは何だろうなと考えることですかね。自分がやりたいかどうかではなく、できるかできないかはとりあえず置いておいて、挑戦してみるべきことかというのが基準になっている気はします。

――松さんがドラマで近年演じられるのは、自由なようで繊細で、自分の中で割り切れない面倒くささに折り合いをつけながら生きていくような女性が多い気がします。そういったキャラクターとご自身に似ている部分はありますか。

松:似ているかは分からないですけど、大豆田とわ子という人をやっていてあんまり違和感がなくて(笑)。あの人も「面倒くさい」と言いながら人と関わっている、諦めていないところがやっていて楽しいところでもありました。自分のテリトリーを守って、ガチガチに鎧を着て生きていくみたいな人じゃなくて、「やっぱりめんどくさかったじゃん」と言いながらも、人と関わって生きていくところが私は好きだったので。私も決して社交的ではないんですね。心を開いているようで開いてないとよく人に言われるし(笑)。でも、人を見たり人を知ったりすることは好きだから、そういう意味ではコミュニケーションを諦めたくないという部分に共感できたし、自分もそうありたいなと思います。

――この舞台の後には、来年はミュージカル『ラ・マンチャの男』があります。松さんの中で舞台というのは他のお仕事と違う感覚がありますか。

松:自分のやること自体は変わらないですね。ただ、舞台は上手くいってもいかなくても、その日のものはその日のものでしかない。その儚さ、残そうと思って残せない何かが魅力なのかなと思います。幕は上がるし、下りるという感じがなんとなく好きなところですかね。

――松さんが演じられる作品は明るい悲劇に見えたり、悲しい喜劇に見えたりする広がりを感じます。ご自身ではコミカルとシリアスをどうとらえ、表現されていますか。

松:今まで意識はしていなかったですけど、今こうして質問していただいて、悲しい・暗い中に笑いがあるのも好きだけど、明るい・楽しい中にちょっと涙があるほうが自分は好きなのかもしれないと思いました。特に舞台だとシリアスな中に笑いを入れて「面白いでしょ?」とするのが、あんまり好きじゃない(笑)。それよりも、アハハって笑っているけど、なんか切ないねという瞬間の方が好きかもしれないですね。それに、現実は楽しいことばかりでもないし悪いことばかりでもない、くるくるいろんなことが日々起こると思うから、お話の世界でもやっぱりそういうものに魅力を感じますね。

――今後どういうスタンスでお仕事を続けていきたいというような理想はありますか。

松:良い作品に出逢いたい、出逢えるように頑張ろうということに尽きますね。それは映像でも舞台でも私の中では等しいです。だから、何かを変えようとは思わないけど、良い作品に出逢えたら良いなと思いながら、それに出逢っても良いような健康な自分でいたいものだなあという、それくらいです(笑)。(取材・文:田幸和歌子 写真:高野広美)

 舞台『パ・ラパパンパン』は、11月3日~28日東京・Bunkamura シアターコクーンにて、12月4日~12日大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演。

 ※松たか子/スタイリスト:梅山弘子(kiki inc.)、ヘアメイク:須賀元子(星野事務所)、衣装協力:ワンピース support surface

エンタメ最新記事一覧