「何事も否定しなくなった」 橋本愛の人生観を変えた映画体験

映画
20211030橋本愛インタビュー
第34回東京国際映画祭フェスティバル・アンバサダーを務める橋本愛  クランクイン! 写真:小川遼

 第34回東京国際映画祭のフェスティバル・アンバサダーに就任した女優の橋本愛。大の映画ファンとしても知られる彼女は、観客として同映画祭を訪れた際に人生を変える1本に出合ったと明かす。「私にとって映画は、“薬”や“教科書”のようなもの」という橋本が、普段の映画館での過ごし方や、映画を通してマイナスな思考をプラスにガラッと変換できた経験について語った。

■「映画に救われてきた人生」フェスティバル・アンバサダーにも意欲

――第34回東京国際映画祭のフェスティバル・アンバサダーに就任した感想をお聞かせください。

橋本:とても光栄に思っています。自分自身「映画に救われてきた人生だな」と感じているので、その実感を持って映画の素晴らしさをお伝えできると思うととてもうれしいです。日本という国で“映画芸術の文化を大切に思う心”がもっともっと育っていくといいなという気持ちが強くあるので、今回の映画祭を通して、映画がより皆さんの生活の一部として根付いていくためにはどうしたらいいのか、前向きに考えていけたらと思っています。

――第33回東京国際映画祭では、映画『はちどり』のキム・ボラ監督とオンラインで対談をされていました。国境を越えて交流を図った経験は、橋本さんにとってどのようなものになりましたか?

橋本:それまでの自分の人生において、海外の方々と触れ合う機会はほとんどありませんでした。海外の方とお話することも得意ではないですし、言語が通じないことで大きなハードルを感じていたので、対談のお話をいただいたときも「できるかな」と最初は怖じ気(おじけ)づいてしまいました。でも自分では選ばない道をやらせていただけるときこそ、たとえ失敗したとしてもいい経験になるはずだと思い、“挑戦”という気持ちで臨みました。

――お二人の心が通じ合っていることがわかるような対談でした。

橋本:今では本当にやってよかったなと心から思っています。キム・ボラ監督の言葉を聞いて、自分と重なるようなものを感じられました。同じ時代を生きて、同じ女性としてものづくりに立ち向かっている人がいることを身をもって体感できました。映画や映画祭を通して心の会話をできたということがとてもうれしく、すごく豊かな時間だったなと思っています。

■チョコ味チュロスが大好き 映画館でのマイルール

――映画祭では、たくさんの作品が上映されます。数多くの映画から“観たい作品”を選ぶときには、橋本さんはどのような手段を取られますか?

橋本:私、映画好きな人のツイッターを結構フォローしていて。フォローされている方には気付かれていないと思いますが、「自分のことをシネフィルというのも恥ずかしい」というような本当のシネフィルといった方のツイッターをのぞいて、感想をチェックしています(笑)。私はいろいろ意見を聞いてから映画を観に行きたいタイプなので、「この映画、面白いぞ!」と、かじを切ってくれる人についていく感じですね。

――映画館にもよく通われているそうです。どのあたりに座るかなど、マイルールがあれば教えてください。

橋本:場内の中央よりちょっと前あたりに座ります。そのあたりに座るとシートに体全体が収まって、首が痛くならないんです。実は映画館に通いすぎて、猫背になってしまったり、腰が痛くなったりとフィジカルがボロボロになってしまった時期があって(笑)! 「姿勢が大事だな」と思ってからは、楽な体勢で観られる位置を探して座るようにしています。

――ボロボロになるほど映画館に通われていたのですね。お気に入りの映画館フードなどはありますか?

橋本:チョコ味のチュロスが大好きで、チュロスのある映画館では必ず買うようにしています。あとパンフレットもたいてい買いますね。映画館への行き帰りの電車や、その土地を楽しむ時間もとても好きです。例えば二子玉川や阿佐ヶ谷など、映画館がなければ足を運ぶ機会のなかったような場所に行くことになるので、その土地ごとの空気やおいしいお店も楽しむようにしています。

■「何事も否定しなくなった」人生観を変えたセリフ

――「映画に救われた人生」というお話がありました。橋本さんにとって、映画はどのような存在なのでしょうか。

橋本:本来、人間は誰かとコミュニケーションを取ることが心の健康を保つためには一番いいことなんだと思いますが、一人の時間を持つこともとても大切だと感じています。映画は、自分一人で“自分を癒やす力”を得ることができるものだと思っています。

――特に救われた映画、セリフなどがあれば教えてください。

橋本:第30回東京国際映画祭で上映されたアレハンドロ・ホドロフスキー監督の『エンドレス・ポエトリー』を観たときに、「愛されなかったから、愛を知ったんだ」というセリフがありました。この言葉で、それまでの心持ちが180度変わりました。愛してくれなかった人やうまく付き合えなかった人に対しても、恨むのではなく「私は、あなたのおかげで愛を知ることができたんだ」と感謝できるようになったんです。

もし誰かに嫌なことをされたとしても「心に何か不満があるんだな。それは私には手が届かないものだけれど何とかなるといいな」と思えるようになったり、何事も否定しないようになったというか。今では自分の考えの土台になっているくらい、忘れられないセリフです。

――マイナスだと思っていたことが実はプラスになっているという、逆説的な考え方ですね。

橋本:嫌なことや悪いことが起きたとして、その渦中はしんどくても「それがあるからプラスになることがある」と思うと、気持ちが楽になりますよね。例えば、私は“あまり学校に行けなかった”ということが、自分の中でしんどいなと思うことだったんです。少女漫画を読んでいても、高校生活ってとてもすてきな時間として描かれていますよね。

「みんなが持っているその青春の時間が私にはないんだ」「この命はその時間を知らずに死んでいくんだ」と思ったりすることもあったんですが、逆を言えば、その時間がなかったからこそ、私は今この気持ちを持つことができている。みんなはこの気持ちを持っていないわけですから、私にしかないこの気持ちをきっと創作に生かすことだってできる。そう思うと自分のことを肯定できるし、自己実現にもつながる。それってすごく健康的なことなんじゃないかなって。

――映画は、橋本さんにうれしい変化をもたらしてくれたのですね。

橋本:私にとって映画は“娯楽”という感覚ではなく、“薬”や“教科書”のようなもの。9割、芸術に育てられたと思っています。もし苦しい経験をされている方がいたら、映画が救いになれることもきっとあるはず。映画がある、映画館があると思い出してもらえたらうれしいです。(取材・文:成田おり枝 写真:小川遼)

 第34回東京国際映画祭は、日比谷・有楽町・銀座地区にて10月30日〜11月8日に開催。

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