山寺宏一「追いつけるわけがない」 偉大な先輩への思いと“2代目”の葛藤

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『ルパン三世 PART6』山寺宏一インタビュー 20211007
山寺宏一  クランクイン! 写真:高野広美

 アニメ化50年の節目を迎える『ルパン三世』の新作テレビシリーズ『ルパン三世 PART6』がいよいよ放送を迎える。先日、アニメシリーズ開始から次元大介の声を演じてきた声優の小林清志が勇退し、大塚明夫に引き継がれることが発表されたが、同じく10年前に納谷悟朗さんから銭形警部の声を引き継いだのは声優の山寺宏一だ。その当時を回顧し「それはもちろん納谷さんに追いつけるわけがないですし、オーディションを受けるのを辞めようかという選択肢もあった」と胸の内を明かした山寺が、先代への敬意と2代目としての葛藤、そして覚悟を語った。

■銭形警部役を引き継いで10年 絶対的なキャラクターを演じる葛藤

 山寺が『ルパン三世』シリーズに銭形警部役として参戦したのは、2011年のテレビスペシャル『ルパン三世 血の刻印 〜永遠のMermaid〜』から。今年で10年という節目を迎えるが「テレビシリーズやスペシャル、劇場版といろいろな形で参加させていただきましたが、いまだに『本当に2代目を仰せつかったのかな…』という気持ちなんです。アニメにおける銭形警部というキャラクターは、偉大なる先輩の納谷悟朗さんが作り上げたもので、いつまで経ってもやはり“引き継いだ”という気持ちがあり、プレッシャーでもあるんです」と率直な思いを述べる。

 先輩へのリスペクトを常に思いつつも、引き継いだからには、しっかりと役を全うしなければいけないという責任感もある。「通常の作品でキャラクターを演じる際は、その人物がどういう人間で、台本にはどんな思いがつづられているのか、何を表現するのか…ということをくみ取ろうと努力します。でも銭形に関しては、すでに多くの人の心のなかに大きな存在として住み着いているキャラクターなので、自分なりの銭形を作っていかなければいけないと思いつつも、銭形という人物から逸脱してはいけない。役を引き継いだ僕以外の方々も、そういった葛藤は常にあったと思います」。

 10年という歳月が経過しても、こうした葛藤はなくならないという。「今回『PART6』の収録の時、あまり銭形にとらわれてはいけないと、その時の感情でスッと自分のなかから出たものを表現したら、音響監督さんから『今のは銭形ではなく山寺さんでしたね』と指摘されたんです。演技としては良い表現なのかなと思っても、そこには銭形という絶対的な存在があるわけで、やっぱりそうだよなって思ってしまいました(笑)」。

■次元大介役・小林清志の勇退、引き継ぐ“戦友”大塚明夫への思い

 長寿アニメでは必ずぶち当たる声優の交代問題。山寺も「絵が変わらない限り、キャラクターは年を取らないですから」と語ると「ある程度は仕方ないにしても、なるべく声はキープしたいなという思いはあります」と胸の内を明かす。

 『ルパン三世』でも、納谷さんから山寺への交代をはじめ、各キャラクターでバトンタッチが行われている。「山田康雄さんから栗田貫一さんに交代された時も大変だったと思います。よく栗田さんは『もともと俺はモノマネだから』とおっしゃっていますが、そんなレベルではなく、真摯(しんし)に役に向き合い、心で演じているのを目の当たりにして『本当にすごいな』と感じています。栗田さんからは、いろいろな思いを僕らは教わっているので、それは本当に助けになりました」。

 そして本作で、テレビアニメスタートから50年にわたって次元大介の声を担当してきた小林が勇退、大塚に引き継がれることが発表された。これに山寺は「大塚さんは、僕よりちょっと年上の先輩ですが、『戦友だな』と言いながらずっとやって来た大好きな兄貴分。公私共に仲良くしていただき、役者としても尊敬している方。僕が納谷さんから交代した時も、いろいろ話をして気持ちを知ってもらっているので、一緒に頑張っていければ」とエールを送る。

 小林に対しては「清志さんは僕が以前いた事務所の先輩でもあり、ずっとお世話になってきた方です。とにかく次元といえば清志さん。清志さんといえば次元というほど唯一無二の存在。僕が言えることではないですが、本当にものすごい存在の方です」と敬意を表する。

■オーディション辞退も考えた「僕だって銭形は納谷さんが1番いいと思っています」

 今回の交代劇、山寺には大塚のプレッシャーが「痛いほど分かる」とおもんぱかる。「多分今回の報道を受けて『変わってほしくない』という思いの人も多いと思います」と切り出すと「僕が納谷さんから交代した時も『声優が変わったら、もうそのキャラクターじゃない!』という意見は聞きました」と当時を振り返る。

 山寺自身、『ルパン三世』のテレビシリーズがスタートした時はちょうど10歳で、夢中になってアニメを見ていたという。「こういった僕ら世代からすると『声優を交代させてまで続ける意味があるのか』とか『そのまま終了してしまえばいいじゃないか』という意見が出るのも分かるんです」と、こうした声に対して理解を示す。

 山寺も「僕だって、銭形は納谷さんが1番いいと思っていますから」と語ると「オーディションを受けるのを辞めようかなという選択肢も頭の中にはありました。でも僕が断っても、代わりに誰かが銭形の声を担当して、『ルパン三世』は放送されるはず。それだったら、僕自身が大好きな作品に入って、そういった否定的な声を少しでも『やってくれてよかった』と感じてもらえるように頑張ろうという気持ちになったんです」と前向きに捉えて臨んだという。

■還暦、そして結婚 長く続けるために「1本1本全てオーディションだと思って」

 強い思いで臨んだ『ルパン三世 PART6』。奇想天外な脚本をベースに、キャラクターたちがこれまで以上に躍動し、王道でありつつも斬新なミステリーが展開する。銭形もいつも以上にルパン逮捕に執念を燃やし、作品に彩りを添える。

 そんなパワフルな銭形を演じる山寺も今年60歳の還暦を迎えたが、銭形同様、躍動感がみなぎっている。「もうそれは役のおかげです」と笑うと「個人的なことですが、結婚もしたのでしっかり頑張らないと。これまでは、なんとなく頑張ってきたらなんとなくできていたことも多かったのですが、発声のことも含めて年齢を重ねると衰えが出てくるので、体力を付けて、少なくとも声はキープしていきたいです」と抱負を述べる。

 もうひとつ山寺が大切にしているのが“感性”だ。「感性が鈍るのが1番怖いことだと思うんです」と危機感を募らせ、「今はやりのことに敏感になるべきということではないのですが、何が面白いことなのか…というのは、自分の中でしっかりアンテナを張っていきたいです。こびるところはこびて」と笑う。

 今回、次元大介役は大塚にバトンタッチしたものの、小林は現在88歳でも現役。その他、野沢雅子ら声優界には80代になっても一線で活躍しているレジェントが多数いる。「僕はそんな方々を目の当たりにしています。先輩たちを見ていると、僕も長くやりたいと心から思います。声優は、自分以外の多くの人が作ってくれたキャラクターによって成り立つ仕事なので、これからも1本1本が全てオーディションだと思って、努力は怠らないようにしていきたいです」と熱い思いを語った。(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)

 テレビアニメ『ルパン三世 PART6』は、日本テレビ系にて10月より放送。日本テレビでは10月9日24時55分より放送開始。

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