「すべて悪魔のせい」と無罪を訴えた前代未聞の実話“アーニー・ジョンソン事件”とは

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映画『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』
映画『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』ルアイリ・オコナー演じるアーニー・ジョンソン (C)2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved

 実在したアメリカ屈指の超常現象研究家であり、凄腕ゴーストハンターとして活躍したウォーレン夫妻。夫のエドはローマ教会が唯一公認する非聖職者の悪魔研究家で、妻ロレインは優れた透視能力を持つ霊能力者。彼らの秘蔵する実録怪奇事件簿を映画化した『死霊館』シリーズは全世界で2100億円超えの興行収入を達成。新作『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』は実に7本目のユニバース作品となる。今回の物語はアメリカ史上初、悪魔憑き殺人事件の立証が法廷で争われた有名なアーニー・ジョンソン事件の実話が元ネタ。しかし、その「実話」は一体どこまでが「事実」なのか。実際の事件のあらましをたどってみたい。

■11歳の少年が目撃した見知らぬ老人

 問題の事件が起きたのは1981年2月16日。コネチカット州ブルックフィールドで、造園土木業に従事する19歳のアーニー・ジョンソンが、家主のアラン・ボノ(当時40歳、映画での名前はブルーノ・ソールズ)をナイフで複数回刺して殺害。凄惨な犯行にも関わらず、彼は弁護士と共に「すべて悪魔のせい」と無罪を主張。前代未聞の裁判に全米が震撼した。

 惨劇の直前、アーニーは婚約者のデビー・グラッツェルと新居の借家へ移り住んだ。だが、引越しの手伝いに来たデビーの11歳の弟デイビッドは、前の住人が使用していた奇妙なシミのあるベッド(映画ではウォーターベッドに変更)が置かれた寝室から血相を変えて飛び出し、見知らぬ老人に突き飛ばされたと訴えた。

 もちろん、そんな老人はどこにもいない。幼稚な子供の嘘だろうと2人は笑ったが、デイビッドは庭へ逃げ、2度と家には入らなかった。

 デビーの実家でも不可解な現象が起きる。屋根裏で怪音が響き、デビーと母親の目の前で、デイビッドが見えない何者かに殴られ、首を締められて窒息寸前となり、原因不明の傷やアザが皮膚に現れた。少年は昼夜問わず幻影に怯え、「姉が新居に来たら危害を加える」と邪悪な老人が警告していると告げた。

 一家は教会にお清めの儀式を依頼するが効果はなく、困り果ててウォーレン夫妻に相談。屋敷を訪れたロレインは、太い男の声で招かれざる客を威嚇(いかく)する少年の隣に、黒い霧状の邪悪な存在を霊視する。

■悪魔を挑発してしまったアーニー

 ウォーレン夫妻は相手が少年であることを考慮し、小規模な悪魔祓いを複数回施そうと提案。しかし、デイビッドは頻繁に痙攣の発作を起こし、ロレインは彼が空中を漂うのを目撃。一家は疲弊し、感情的になったアーニーはつい、「俺に憑依してみろ」と悪魔を挑発してしまう。

 数日後、アーニーの愛車が突然、暴走して樹木に突っ込むという出来事が起きた。釈然としない彼が向かったのは、自宅の借家を囲む森の奥にある古井戸。そこはデイビッドが悪魔を見たと訴え、ウォーレン夫妻も近づくなと忠告した場所だった。アーニーが暗い井戸の底に目を凝らすと、こちらを見上げる魔物と目があってしまった。

 遂に借家を離れることを決意したアーニーは、犬の美容師であるデビーが勤めるケンネルの経営者アラン・ボノに頼み、近隣のアパートに恋人と身を寄せた。しかし、怪現象はおさまらず、アーニーは度々没我状態に陥り、幻覚を見るようになる。

■ボノと口論になり刺殺

 事件当日。仕事先に病欠の電話を入れたアーニーは、妹のワンダ、デビーの9歳の従姉妹メアリーを連れ、デビーとボノも合流して地元のバーで昼食を取った。大酒を飲んでケンネルに戻ったボノを見て、デビーは子供たちを帰そうとするが、悪酔いした彼はメアリーを腕に抱えて「帰るな」と絡み始めた。

 苛立つアーニーは、メアリーを捕らえたままケンネルの外に出たボノと口論に発展。デビーとワンダが2人を仲裁するも、アーニーは獣のような唸り声をあげてボノに飛びかかり、約13センチのナイフで相手の体を何度も突き刺したのだ。

 胸と腹に致命傷を負い、ボノは数時間後に死亡。アーニーは現場から逃走、約3.2キロ離れた場所を茫然と歩いているのを発見され、身柄を拘束された。

 これはブルックフィールドで初めて起きた殺人事件となり、地元に大きな衝撃を与えた。事件の翌日、ロレインは現地の警察に連絡。アーニーの犯行は悪魔の憑依が原因と主張(事件以前にも彼女は犯行を警戒、同署に何度も忠告をしている)し、メディアの特ダネ報道も手伝って全米の注目を集めることになった。

■ケヴィン・ベーコン主演で事件をテレビ映画化

 以上が事件のあらましだが、実はこの案件、既に1983年にアメリカでテレビ映画となり、日本でも『ブライアンの悪夢』という邦題でビデオソフトが発売されている。主演はなんと、『フットルース』(84年)でブレイク直前のケヴィン・ベーコン。役名こそ違うが、恋人とその家族の苦境に胸を痛めるがゆえに、人知を超えた受難に苦しむピュアな青年役を切々と熱演している。今回の『死霊館~』は事件をギュッと濃縮したが、悪魔の脅威は数年単位で長期間、被害者を追い詰めるケースが多く、お祓い一発でスッキリ解決に至らないのが実情だ。テレビ映画版は大小の怪異に翻弄され、憔悴する家族目線で物語が進行。ドンヨリと暗い湿った実録感がたまらなくリアルな一篇である。

■『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』見どころはウォーレン夫妻の心霊探偵ぶり!

 一方で『死霊館~』は事実を踏まえつつ、状況や人間関係はシンプルかつドラマティックに翻訳。デイビッドにつきまとう老人霊や古井戸の魔物など、シリーズの過去作なら喜んで映像化しそうな怪談要素を思い切って排除し、ウォーレン夫妻の心霊探偵としての活躍を強調する。警察が決して追い切れない未解決事件の闇を、被害者の遺品を用いたロレインが霊視でズバリ言い当てる名場面は、オカルト好きなら拍手喝采、間違いなしだ。

 また、結果が明らかな判決の経緯に深入りせず、四面楚歌のアーニーを救う退魔の儀式と、無差別な呪いを振りまく黒幕との正面対決を活写。映像面でのスペクタクルを重視したクライマックスはカタルシスたっぷりで満足度が高い。青年時代に映画館の案内係をしていたエドと、若きロレインの初恋「実話」もしっかり描かれ、邪悪な存在を「慈愛」の祈りが打ち倒す『死霊館』シリーズの核心を改めて示したのも頼もしい。

 事実は小説より奇なり。映画のラストに流れる実際の悪魔祓いの音声を聞きながら、怪奇実話の妖しい魅力にドップリ浸ろう。(文・山崎圭司)

 映画『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』は公開中。

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