実写もうらやむ豪華俳優陣 『もののけ姫』石田ゆり子&美輪明宏ら“声の演技”に注目

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『もののけ姫』(1997)
実写もうらやむ超豪華俳優陣が集結した『もののけ姫』(1997)  写真提供:AFLO

 1997年7月に公開され、興行収入193億円・観客動員数1420万人(当時※)を記録した宮崎駿監督の大ヒット作『もののけ姫』が、今夜「金曜ロードショー」(日本テレビ系/毎週金曜21時)でノーカット放送される。テレビ初放送時は35.1%、10回目となった2018年の前回放送時でも12.8%の視聴率を記録するという、いつの世も変わらぬ人気を集める傑作と言っても過言ではない本作。大作アニメの声優に、実写で活躍する俳優を起用するのはもはや当たり前だが、宮崎監督が自身の監督作で、メインキャストを俳優陣で固めたのは、本作が初めて。公開当時は“宮崎駿の引退作”と謳(うた)われ、<自然と人間>の関わりをテーマに『風の谷のナウシカ』から13年を経て製作された渾身(こんしん)作を、今回は“声の出演”の切り口から振り返ってみたい。

■石田ゆり子はサン役に大苦戦、アシタカ役は『ナウシカ』にも参加した松田洋治

 犬神に育てられ、“もののけ姫”として人間に敵対するヒロイン、サンを演じたのは、公開当時27歳だった石田ゆり子。『平成狸合戦ぽんぽこ』のおキヨ役を経ての、2度目のアニメ声優だった。1990年の北野武監督作『3‐4X10月』出演のほか、ドラマ主演も飾っていた彼女だが、サン役は本当に苦労したよう。数十回にも及ぶ宮崎監督からのNGに、「降ろされると思いました。繰り返すうちに、それが多すぎわけが分からなくなりました」と舞台あいさつで振り返っているほどだ。

 タタリ神の呪いによって村を追われ、山の神々と人間の壮絶な対立のなかでサンと出会う主人公、アシタカ役は松田洋治。1983年のドラマ『家族ゲーム』出演で注目を集め、『風の谷のナウシカ』のアスベル役も演じていた。宮崎監督の「崩れた少年を演じられる人は他にもいるが、凜とした少年を演じられるのはこの人しかいない」との理由で起用された。


■田中裕子、美輪明宏、森繁久彌──実写映画もうらやむ超豪華キャスティング

 サン、アシタカを筆頭に、本作には多彩なキャラクターが登場するが、演じた面々は、実写映画がうらやむほどの超豪華な顔ぶれだ。タタラ場を率いる女頭領・エボシ御前役の田中裕子、謎の僧侶ジコ坊役の小林薫、タタラ場の牛飼いのひとり・甲六役の西村まさ彦(当時・西村雅彦)ら、今や映画・ドラマに欠かせない実力派俳優陣に加え、犬神のモロを演じた美輪明宏、猪神・乙事主役の森繁久彌、アシタカの村の長老ヒイ様役の森光子といった大御所も参加し、複雑なキャラクター像を演じた。

 『もののけ姫』制作の現場に迫ったドキュメンタリー『「もののけ姫」はこうして生まれた。』は、アフレコの模様も詳細に捉えているが、冷徹さと優しさを兼ね備えたエボシを演じる田中の演技に、宮崎監督と鈴木敏夫プロデューサーが「上手い」と感嘆する姿や、甲六役の西村が発する悲鳴やアドリブに、宮崎監督が「天才的」と絶賛を送る様子が印象的だ。

 また、「母性があって残酷で、達観していて慈悲があって凶暴で…それだけの要素をひと言で表現しろと言われて殺意を抱きました(笑)」と美輪が語っている犬神モロでは、「乙事主と昔いい仲だった」(宮崎監督)というエピソードが注目だ。モロと乙事主が話すシーンで「どうも何か違う」と感じた監督が、美輪にふたりの過去の関係を伝えたところ、モロの声に“女”が含まれてOKテイクとなったそう。モロと乙事主が久々に再会するシーン、そしてタタリ神と化した乙事主にモロが対峙(たいじ)するシーンは、これを踏まえて観ると、より味わい深くなる。

■宮崎監督が専業声優ではなく、俳優を起用するようになった理由

 なぜ専業声優ではなく、俳優をキャスティングするのか? これは、本作に限らず、アニメ・ファンにとって大いに気になるポイントだろう。

 宮崎監督は『となりのトトロ』でコピーライターの糸井重里をお父さん役に起用しているが、その際に「プロの声優の声をいろいろ聞いたが、どれも“いいお父さん”になりすぎている」という旨の発言をしている。また、声優のスキルとしての“声の作り込み”について「存在感のなさに欲求不満になるときがある。あれが堪(たま)らない。なんとかしたいといつも思っている」とも。

 この点については、『もののけ姫』でタタラ場の番子・トキ役で起用されている島本須美のエピソードが興味深い。島本は、宮崎監督作『ルパン三世/カリオストロの城』『風の谷のナウシカ』でヒロインを演じただけでなく、『めぞん一刻』の音無響子役でも人気を博してきた実力派声優。それにもかかわらず、『もののけ姫』収録時にはNGを出しまくったというのだ。前述のドキュメンタリーでは、苦闘する島本に対して宮崎監督が「職業上の仮面があるね」と発言。やはり“声優としてのスキル”が不要だと匂わせている。

 「声の持っている存在感、これは自分では作ることのできないものですよ。上手い下手じゃないですね。持っているか、持っていないか」とは本作公開時の監督の発言だが、スキルよりも存在感を突き詰めることが、俳優を起用する理由となっているのは確かだろう。

■俳優陣の“声の演技”によって、監督自身もキャラクター像を理解

 本作のキャスティングの方針・理由については、当時32歳で音響監督を務め、宮崎監督作では『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』も手掛けた若林和弘の「キャラクターの人間性と、それを演じる役者の人格が一貫していることを重視した」という発言からもうかがえる。サン役の石田ゆり子がNGを繰り返し、宮崎監督から何度も細かい指示を受けて修正していく度に混乱したことは先にも述べたが、そうした石田自身の葛藤や苦悩、成長が、サンというキャラクターそのものに投影されている。それは「もっと強い子だと思っていた」という宮崎監督自身の予想を超えて、「ただ強いだけじゃなくてずいぶん無理をしている」というキャラクター像を育て、そして、「なるほどと思った。石田ゆり子さんのサンをすっかり受け入れた」と言わしめるほどになった。

 宮崎監督は「(当初は)声も含めた人物像としては、自分でもよく分からない部分があった」と語っている。それが、アフレコが進むにつれて「いろんな人(出演者)に補完されて、『ああなるほど、こういう人物だったのか』と分かった」と変化していく。これはまさに、キャラクターに息吹を吹き込んだ出演陣が持つ“声”の力のたまものだ。今回の放送ではぜひ、改めて、“声の演技”に集中して観てみることをおススメしたい。(文:村上健一)

※興行収入193億円は当時の国内歴代興行収入No.1。2020年に再上映され、累計興行収入は201億8000万円。

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