これまでにない語り口のスリリングな復讐劇『プロミシング・ヤング・ウーマン』

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映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』
映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』場面写真 (C)2020 Focus Features, LLC.

 第93回アカデミー賞にて脚本賞を受賞したキャリー・マリガン主演映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』が、いよいよ7月16日より公開。タイムリーな社会問題をテーマにしながら、これまでにない語り口でスリリングな復讐(ふくしゅう)劇に仕上げた秀作だ。

 タイトルの『プロミシング・ヤング・ウーマン』とは、本作のヒロインであるキャシー(キャリー・マリガン)のような“前途有望な若い女性”のこと。彼女は幼い頃から極めて優秀だったが、ある事件が原因で医大を中退。30歳が目前の今は、カフェの店員として平凡な毎日を送っている…ように見せかけ、夜な夜なバーやクラブで泥酔したフリをして、お持ち帰り目的で寄ってくるオトコたちに制裁を下していた。

 ある日、大学時代のクラスメートで現在は小児科医として働くライアン(ボー・バーナム)がカフェを訪れる。この偶然の再会が、キャリーを思いがけないロマンスに誘い、同時に過去のトラウマに決着をつけさせることになる。

 ヒロインの復讐の矛先は、“酔っている女に対しては何をしてもいい”と性暴力に及ぶ男たちだけではない。そばに不条理や差別に直面する女性がいても「世の中そういうもの」と傍観を決め込む女たちにも容赦なく向けられる。

 その復讐方法は、リアリティーあふれるもの。安易に銃や暴力を用いるのではなく、自身の明晰(めいせき)な頭脳を駆使し、普通の女性でも実行できそうな方法で遂行していく。ターゲットは過去にどんな罪を犯したのか、キャシーの見事な復讐劇と共に明かされていく展開が非常にスリリングで片時も目を離せない。

 劇中でヒロインの復讐のターゲットとなるのは、一見人柄も良く、社会的にも成功しているように見える人々。そんな彼らが、キャシーからの容赦ない追究によって隠れた本性があらわになっていくところも見どころのひとつだ。彼らは絶対的な悪人ではなく、どこにでもいる“普通の人”。映画を見ている自分も、一歩間違えて彼らのようなふるまいをしてしまう可能性は充分にある…と考えさせられる。

 そして映画を観終えた後思った。ほんのわずかではあるけれど、以前より女性が声をあげやすい世の中になってきたのではないかと。ヒロインのキャシーは、ジェンダー問題への関心が高まっている今の時代を象徴するキャラクターではないだろうか。

 製作・監督・脚本を務めたのは、脚本家、女優、小説家として活躍するイギリス出身のエメラルド・フェネル。長編監督デビューを飾った本作で、社会にはびこるジェンダーバイアス(男女の役割における固定観念)に切り込んでいるが、フェネルが目指したのは「見ごたえのあるおもしろい映画」。スリラー、ロマコメ、社会派、とジャンルの枠を軽々と超えた巧みなストーリーテリングで観客を一気に予想不可能な復讐劇に引き込む。

 ヒロインを取り巻く世界はポップかつカラフルに描かれ、衣装やセットは鮮やかな色彩にあふれている。音楽もブリトニー・スピアーズやパリス・ヒルトンの楽曲が用いられるなどガーリーテイスト。あえてシリアスなテーマとは相容れない要素で彩ることによって、物語に皮肉と強烈な毒気を含ませている。その独創的で大胆不敵な物語に共鳴し、女優のマーゴット・ロビーが製作に名を連ねている。

 果たしてキャシーのリベンジはどんな結末を迎えるのか。ウーマンパワーが実を結んで誕生した、ハリウッドの定型を突き崩す華麗な復讐劇をぜひお見逃しなく。(文・古川祐子)

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