実写『るろうに剣心』10年の歩みから成功の要因を振り返る

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映画『るろうに剣心 最終章 The Beginning』
剣心の過酷な“旅”が完結 『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より (C)2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

 2012年、和月伸宏による大人気コミックを実写映画化した第1作目が爆発的な大ヒットとなり、今や邦画作品の枠を超え、その名を世界に轟かせる存在となった『るろうに剣心』シリーズ。2014年公開の『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』を経て、今年ついに、最後の作品となる『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』が公開され、約10年にわたる剣心の過酷な“旅”が完結を迎えた。コロナ禍にもめげず映画は大ヒットとなり、シリーズ累計興収160億円、観客動員数1200万人を突破(6月6日現在)するなど、記録を更新し続けているが、なぜ本シリーズは、ここまで多くの人々の心を鷲づかみにすることができたのか? その理由を改めて整理してみる。

●剣心を演じるために生まれてきた “佐藤健”という存在

 例えば今なら、『鬼滅の刃』。実写化するとしたら、「竈門炭治郎役は誰がいいか?」などといろんなメディアが焚(た)きつけると、ファンの大多数が拒否反応を示し、SNS上がザワついた。原作やアニメが持つその世界観を「何よりも大切にしたい」という思いの表れだと思うが、『るろうに剣心』も同様、アニメ化はされていたものの、原作終了から10年以上、実写化の声は聞かれなかった。

 だが、それを一変させたのが、俳優・佐藤健の登場だった。『仮面ライダー電王』(2007~2008)で注目を浴び、続く大ヒットドラマ『ROOKIES』シリーズ(2008~2009)や『ブラック・マンディ』シリーズ(2008、2010)などで次代を担う若手俳優の筆頭株として名乗りを上げていた佐藤は、NHK大河ドラマ『龍馬伝』(2010)に出演し、当時、NHKのディレクターだった大友啓史監督と運命の出会いを果たす。

 『最終章』公開に合わせて、佐藤、大友監督、そして本シリーズの音楽を全作担当したONE OK ROCKのTakaによる鼎談(ていだん)を収録した『ボクらの時代』(フジテレビ系)が先日放送されたが、そこで大友監督は、当時の佐藤をこう評している。「キャリアのある俳優がたくさんいる中でもマイペース。媚びず、ブレず、やるべきことだけに集中しているすごい若手がいる」と。佐藤自身、「演じることに、自信があるとかないとか、そういう概念もなかった。常に『これをやるんですね』という感じ」と淡々と語っているが、そんな佐藤の“外面”を気にせずいきなり本質を突いてくる性格に、Takaはヒヤヒヤすることもあるという。

 だが、まさにその佐藤独特の人間的な“構造”が剣心を彷彿とさせるのだ。物静かで、おっとりとしていて、どこか悲しげ。けれど、いざ敵に立ち向かう時には、狂気をも感じさせる激しさが顔を出す…。過去、佐藤を4度ほどインタビューしているが、確かにクールで朴訥(ぼくとつ)としたところはあるが、彼の声を聴きながら文字起こしをしていると、不思議と作品に対する燃えるような情熱が浮き彫りになってくることにいつも驚かされていた。外面を整えることには無頓着だが、内面は激しく燃えている…そんな彼のパーソナリティーは、まさに剣心の本質と重なり、二次元の剣心に勝るとも劣らない美しいヴィジュアルは、むしろ “副産物”としてついてきたようにも思えるのだ。

 それに加え、野球や少林寺拳法(黒帯らしい)、ブレイクダンスなどスポーツも経験豊富で、スタントダブルを必要としない身体能力の高さも併せ持つという完璧さ。佐藤のYouTubeチャンネルにアップされた殺陣の練習風景を見ると、「オリンピックでも目指しているのか?」と思えるほどのハードなトレーニングを黙々と重ねている姿が映し出されているが、言葉少ない佐藤なりの、これがすなわち「剣心を背負う覚悟」の表れなのだと納得させられる。

●リアリティーにこだわる大友監督の人間臭い演出

 佐藤健という稀有(けう)な俳優を手に入れて、製作サイドも成功への期待が俄然高まったと思うが、彼を生かすも殺すも監督次第。大河ドラマの実績を買われ大抜てきされた大友監督と、ドニー・イェンの元で多くの作品に携わってきた谷垣健治アクション監督のコラボが実現したことも『るろうに剣心』シリーズ成功の大きな要因だ。

 大友監督は、もともとNHKのドキュメンタリー畑の出身。リアリティーを追求した演出が大河ドラマでも生かされ、『るろうに剣心』シリーズにおいても、単なるコミックの実写化ではなく、役者の力量を極限まで引き出し、実に人間臭いドラマに仕上げている。またまた『ボクらの時代』の言葉を引用して申し訳ないが、この鼎談(ていだん)で大友監督は、ハリウッド留学時代に学んだある演出法を採り入れたことを明かしている。「例えば、俳優に泣いてもらうのではなく、こちらが泣ける環境を用意すること。リザウト演出(狙い通りの演出)は一切せず、そこから先は俳優のオリジナルにまかせることが大事」なのだと。

 俳優陣が、心を揺さぶる渾身(こんしん)の演技を見せているのは、こうした大友監督の演出マジックにある。佐藤はオフィシャルインタビューで、「最初は、漫画もアニメも観ていた自分が剣心を演じるなんて怪しさしかなかった」と言っているが、大友監督の非リザウト演出に身を委ねた彼は、シリーズを重ねるごとに進化を遂げた。つまり、当初、ファンの期待に応えようと“再現性”ばかりにこだわっていた佐藤が、感情の赴くままに演じているうちに、彼の心の中に剣心が宿り、完全に棲みついてしまったのだ。その集大成が『The Beginning』の演技であることは、映画をご覧になった方なら疑いの余地はないだろう。

●邦画を世界レベルに押し上げた谷垣アクション監督の挑戦

 一方、この映画のもう一つの核であり、最大の見せ場であるアクションシーンは、倉田アクションクラブで基礎を学び、香港映画で腕を磨いた谷垣健治監督に任された。大友監督から、「感情が見えるアクション」というオーダーを最初に受けたそうだが、『最終章』ではさらにハードルが上がり、今回は「濃密な感情がほとばしるアクションを目指してほしい」という依頼を受けたという(プレス用パンフレットより)。

 その要求はシリーズを追うごとに過激さを増し、「前作を超えるアクション」「限界突破」などが毎回の合言葉になっていくが、『The Beginning』で描かれた巴との一件で、不殺(殺さず)の誓いを立てた剣心は、逆刃刀(さかばとう)に持ち替え、敵と対峙(たいじ)する生き方を選択したことから、この特徴を利用して谷垣監督は、当たっても大けがには到らない“模擬刀”を開発している。これによって、俳優は段取りを気にせず、本気で人を斬りにいく勢いがつき、かつて観たことのないスピード感やリアリティーを生み出すことに成功した。

 さらに、戦いの臨場感を出すため、マスターショット(基本になる定位置からのワンシーンワンショット)を多く採り入れたり、俳優の気持ちを切らさないために、カメラマンが彼らのアクションに合わせて動いたり、はたまたワイヤーワークであの独特のドリフト走行を開発したり…ありとあらゆる挑戦を『るろうに剣心』シリーズに持ち込んでいる。

 1作目でインタビューをした際、佐藤は「アクション部の方々に、手取り足取り教えていただいた」と話していたが、本作では、「アクション部と話し合いながら、“ぬるいアクションになるくらいだったらカットしたほうがいい”という共通認識で、動きを決めていった」と頼もしい発言をしているが、この意識の変化も谷垣イズムが浸透した表れと言えるだろう。

●ONE OK ROCKの音楽が醸し出す『るろうに剣心』の世界観

 『るろうに剣心』シリーズを語る上で忘れてならないのは、ONE OK ROCKのナンバーだ。今でこそ、「彼らでなければ剣心の世界は描けない」と豪語しても異論が出る余地はないが、パート1制作時、佐藤健が剣心役でなかったら、彼らは少なくともこの作品とは縁が薄く、また違った道を歩んでいたことだろう。

 時を戻せば学生時代、まだまだ発展途上にあったONE OK ROCKの音楽をたまたま友人のイヤホンで聴いた佐藤は、Takaの声に一撃された。以来、ライブへ足繁く通うようになり、やがて同じ事務所、同じ学年であることを知り、徐々に友人関係を深めていく。そんな時に届いた剣心役のオファー。佐藤は、「自分が主演をやるのなら、ONE OK ROCKの音楽を使ってほしい」と後押ししたそうだが、それは単なる友情だけではなく、彼らの音楽が『るろうに剣心』シリーズに一番ふさわしいと本能的に嗅ぎ分けていたからではないだろうか。

 オフィシャルインタビューでTakaは、「時代を変えるために前に突き進み、そのために剣を振るって相手を倒していく。圧倒的に孤独であって、優しさも寂しさも持ち合わせている剣心の人間性にフォーカスし、僕たちのバンドの方向性をリンクさせながら曲を作ってきた」と語っているが、シリーズを追うごとに壮大になっていった彼らの音楽は、Takaが一番好きだという最新作『The Beginning』で、ピアノソロから始まる“哀愁”に満ちたエモーシナルな楽曲へと行き着いているところも興味深い。

 前述の『ボクらの時代』でTakaは、「僕の中にある哀愁は両親(森進一、森昌子)の影響。子どもの頃から歌謡曲を聴いて育ったので、洋楽に憧れながらも日本人ならではの哀愁が体に染み込んでいる」と告白しているが、武士の心模様を描くサムライ映画に彼らのロックが自然とリンクしたのも、Takaのそういったメンタルも影響しているからだろう。「曲を作っていても、いつも哀愁が出過ぎてしまうので、かなり抑えている」という意外な裏話に、彼らの音楽が剣心と共に歩めるのは、「そういうことか!」と腑に落ちた。かっこいいだけじゃない、そこに流れる哀愁に満ちた日本人の心…ONE OK ROCKの音楽がなかったら、『るろうに剣心』シリーズの世界観は、きっと凡庸なものになっていたことだろう。

 類まれな原作のもとに集結した佐藤健、大友監督、谷垣アクション監督、そしてONE OK ROCKの壮大な音楽…個性あふれる共演陣のがんばりも相まって、『るろうに剣心』シリーズは、とてつもない奇跡を起こした。(文・坂田正樹)

 映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』は公開中。

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