<ホラー映画ナビ>『野良人間』ってなんだ!? メキシコが放つ禁断のファウンドフッテージ・ホラー

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映画『野良人間 獣に育てられた子どもたち』
映画『野良人間 獣に育てられた子どもたち』場面写真 (C)CINE FERAL, S DE RL DE CV

 次々と日本上陸を果たす最新ホラー映画から選りすぐりの注目作をピックアップ。独創的でスリリング、おもしろコワイ、観て損なしの「この1本」を独断と偏見でチョイスして、関連度の高い「おすすめ作品2本」とあわせてご紹介! 今回は物騒なタイトルで心を鷲づかみにするメキシコ映画『野良人間』。

 敬虔(けいけん)なカトリックの国ながら、身代金や人身・臓器売買目的の児童誘拐が日常的に横行するメキシコの闇と、神話や伝説に残る野生児の寓話が合体。野良人間を育む社会に生きる人々の黒い恐怖が、じんわりと染み出す“人コワ”ホラーの優良物件だ。

 1987年、メキシコの山岳地帯、人里離れた森の民家で原因不明の火災が発生。焼け跡で発見された4名の焼死体は、家主のファンと檻に入れられた身元不明の3人の子どもたち。それから長い歳月が流れた現在、謎多き未解決事件を再検証する取材班は、ついにファンが撮り貯めた極秘ビデオと日記を入手。そこには火災事件の手がかりとなる奇妙で恐ろしい真実が刻まれていた。

 非業の死を遂げたファンは一体、どんな人物だったのか。遺体を引き取った隣家の男、長く交流を断った旧友、事件を忌み嫌う町の人間ら(その場にいなかったことにしようとする態度がまた恐ろしい)、取材を受けた関係者の証言が続く。ファンは元聖職者で、揺るがぬ信仰を証明するために精神分析医の診断を受けた結果、異端視され、修道院を追われた過去を持っていた。やがて彼は、神との対話を己の内面に求め始める。そもそも、彼が神に仕える身になった理由は毒親の存在があり…。数々の証言から、徐々にその素顔が明かされる。

 一方、発見されたビデオテープには、ファンが森のなかで野生児同然の少年を保護し、言葉を教え、教育する過程が収められていた。ぼんやりと不鮮明な画面につづられる、教師と生徒、あるいは父と子のような温かい関係。しかし、少年が炎に興味を抱いてこっそり火遊びを始めたこと、さらには森の洞窟から新たに幼い2人の少年少女を保護したことで、不吉な気配が漂い始める。

 孤独な神の探求者の半生を辿り、一歩ずつ実像に迫る取材映像と、信仰と善意が無情に崩壊する過程を内部から生々しく記録するファウンドフッテージのビデオテープ。淡々と進行する画面の中で、肌触りの違う2つの語り口が最後まで興味をひきつけて止まない。

 俗世に背を向けた小さな森の理想郷が、苦悩の密室に転じてゆく焦燥感。孤立無援の末の自滅。彼らを追い込んだものはなんなのか。「野良人間」とは何か。「彼らを育てた獣」の正体とは。ひも解かれた遺品を眺める気味悪さ、人の心の底なし沼をのぞき込む不安に満ちた、禁断の問題作だ。

 映画『野良人間 獣に育てられた子どもたち』は5月21日より公開。

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<『野良人間』を気に入った人におすすめしたい2本>

★POVを世界中で流行らせたメガヒット作『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999)

 魔女伝説がささやかれる呪われた森でドキュメンタリー映画を撮影していた学生3人が失踪。後に発見された録画ビデオを検証すると、不可解な怪現象に怯える彼らの忌まわしい最期が記録されていた。ウェブサイトで実際の行方不明事件をうたって宣伝を展開。「実話怪談」として認知度を高め、増殖するネットロア(インターネットに流布する都市伝説)の口コミで大ヒット。本作と同じPOV(主観映像)で撮影されたファウンドフッテージ・ホラー映画を大流行させた1本。映画本編には状況設定などの説明はほとんどなく、あくまで証拠品扱い。その徹底した無骨さが今観ると潔くて面白い。

★デル・トロ初期の秀作『デビルズ・バックボーン』(2001)

 スペイン内戦で親を失い、孤児院に身を寄せた少年の前に現れた小さな男の子の幽霊。頭に深い傷を負い、無残な姿をさらす彼は、自分を死に追いやった相手に復讐する機会を待っていた。戦争の不安を遠景におき、荒地の孤児院という密室に紡がれる暴力と死、小さな希望の物語。メキシコ生まれのギレルモ・デル・トロ監督が自らのルーツである信仰心、幼年期から目にしてきた犯罪大国の実情(自身の父親が誘拐された経験もある!)を世界観に色濃く反映させた心霊映画の秀作。メンタリティの根っこの部分に『野良人間』との深いリンクを感じる。

(文・山崎圭司)

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