須田亜香里、“握手ができない私は意味がない”――自粛期間に感じた葛藤

“握手会での神対応”で知られ、2018年の『AKB48 53rdシングル 世界選抜総選挙』では自己最高の2位に輝いたSKE48の須田亜香里。アイドル活動のほか、バラエティー番組でも個性を発揮する須田が『劇場版・打姫オバカミーコ』で初主演を務める。今年30歳という節目を迎える須田に、「プレッシャーだった」という本作や、コロナ自粛期間に感じた葛藤など今の率直な思いを聞いた。
★経験が浅く何もできないからこそ準備を大切に
麻雀漫画専門誌「近代麻雀」で約6年間連載された同名の人気麻雀漫画を原作とする本作は、駆け出しの女流プロ雀士・丘葉未唯子(ミーコ)が、プロ競技麻雀の世界を諦めた元王者・波溜晴(萩原聖人)との出会いをきっかけに女流リーグの頂点を目指す麻雀ラブストーリー。演技経験の浅い須田にとって、今回のオファーはプレッシャーだったという。
「私でいいんだろうか?って思いました。“麻雀を始める人はとにかく『オバカミーコ』を読め”と言われるくらい教科書のようなすごく大きな存在。それを原作とする作品で主演をやらせていただくというのはプレッシャーでした。
『熱闘!Mリーグ』(ABEMA)という麻雀番組でアシスタントを務めさせていただいていますが、最初は麻雀の知識はゼロでした。麻雀を好きな人の気持ちを害してしまうのでは?という心配も大きかったですが、麻雀って楽しそうだけど始めるきっかけがなかったりする方も多いと思うので、そういう方の気持ちが分かる立ち位置でいられたらいいなと大切にしながらやってきました。そんな自分が麻雀を始める人が通る漫画の映画化作品に出られることは、麻雀界に自分ができることが増えた気がしてうれしかったです」。
演じるミーコは明るく素直な性格。須田と重なる部分も多いように感じられる。
「周りから“そのままじゃない?”って言われますが、私はミーコほど天真らんまんじゃないし、そうかな?って。でも、喜怒哀楽が激しくて、感情表現が素直なところは似ているかもしれません。私も周囲から愛情を持ったアドバイスをいただくと、うれしくってすぐ吸収します。
こんなにセリフがあるのは初めてで難しいことも多く、経験が浅く何もできない主演だからこそ周りの方にたくさん頼った部分がありました。今回の撮影で、私は当たり前のことなのですが、できる準備をしっかりしていくことの大切さを感じました。波溜役の萩原さんは現場に台本を持ちこまない方だったんです。そうした姿を目の当たりにして、私も現場で台本を開かなくていいくらいにするにはどれくらい読み込めばいいのかと、しっかり準備をして現場に臨みました。この役に選んでもらったからには、期待に応えるために自分ができることは一つでも多くしっかりやるということは大前提だし、準備がどれだけ大事なことか改めて感じました」。
★“師匠”萩原聖人に仕事も麻雀も相談
演技でも麻雀でも大先輩にあたる萩原は須田にとって師匠のような存在だという。
「私は師匠とお呼びしているのですが、『なんでも師匠の真似をしよう!』と心に決め、撮影中は飲むドリンクも真似したり(笑)。師匠はご自分からいろいろ教えてくださる方ではないですが、“聞いてくれたらなんでも答えるよ”という感じで、声をかけやすい距離感でいてくださったのでとてもありがたかったです。今では仕事のことも麻雀のことも相談しています。麻雀に関してはとても厳しいですけど(笑)」。
そうして出来上がった作品を見ての須田の感想はどうだったのだろう?
「ミーコがかわいいんです! 私かわいくないのに主演なんて…と思っていましたが、監督さんをはじめ皆さん、ミーコをかわいいキャラクターとして見せたいと目指されていて。作品が出来上がるってこういうことなんだと、自分だけの力じゃないからこそ感動しました」。
★「爪痕ではなく足跡を」――恩人にもらった言葉を胸に
ミーコが波溜と出会うことで成長できたように、須田にとって転機となった出会いを聞くと…。
「6年くらい前に『アッパレやってまーす!』(MBSラジオ)という深夜の生放送をやらせていただいていたのですが、その番組の作家さんに『友達の家に来て楽しく話すくらいの気持ちでやったらいいから』と言われたんです。それまで私は爪痕を残そうと意気込んで番組に臨んでいて、人の話をあんまり聞いていなかったんです。人の話を聞かなきゃ話せないということに気づいていなかった。話の流れがあってそれに乗るから面白いんであって、私が面白いエピソードトークをするのが大事なんじゃない、みんなで楽しい空間を作ることが大事なんだと気づき、おしゃべりが楽しくなりました。
その方には『爪痕はただの傷。須田が残さないといけないのは足跡や』とも言われました。アイドルをやっていると“爪痕残してね!”って周りから言われることがすごく多いのですが、なるほど地に足が着いていないと足跡を残せない、私が欲しいのは足跡なんだなって。それ以来周りとのコミュニケーションが楽しくなりましたし、いまバラエティー番組に出させてもらえているのも、その時のラジオの出会いがあったからだと思っています」。
★「握手ができない私は意味がない」と葛藤
昨年はコロナ禍でグループ恒例の握手会が中止されるなど、「握手会の神対応」で輝いた須田にとってつらい時期が続いた。
「握手会がなきゃ私って価値がないって思っていました。春から夏ごろの自粛期間には、私にはグループのためにできていることが何もないぞ、握手ができない私は意味がないって…。苦しかったですね。
でも、最近は握手ができなくてもリモートや小規模なイベントができるようになり、握手がないのに今までと変わらずにたくさんの方が私に会いに来てくださる。握手に価値があるのではなくて、私という人間に向き合うことに価値を感じてくださる方がこんなにいるんだと自信になりました」。
★今年迎える30歳 卒業でアイドルの肩書きを失うことに感じる“怖さ”
今年10月に須田は30歳を迎える。30代の目標はあるのだろうか?
「そうですね…。あ、『お嫁さんにしたいランキング』に入りたいです! そんなイメージないと思うんですけど(笑)。『お嫁さんにしたいランキング』に入ったら、1人の人にプロポーズされるよりも、多くの人にプロポーズされているような気持ちになるじゃないですか(笑)。
お仕事では、アイドル活動や、演技、バラエティーといろいろやらせていただいていますが、ラジオのお仕事に魅力を感じています。特に生放送は、リスナーの皆さんとリアルタイムで話が展開していくのが面白いですね」。
デビューから12年が経ち、自身のこれまでとこれからについてどう考えているのだろう?
「これまでの12年、アイドルにならなかったらできなかったことばかり。アイドルの自分をファンの皆さんが作ってくださったからこそ、ご縁があってつながったお仕事ばかりでした。バラエティー番組で、総選挙2位の須田が泥まみれでこんなことまでやるの!?と笑われるお決まりのくだりも、アイドルというベースがあるからのもの。ファンの皆さんがいてくれるからこそだと常々感じています。
だからこそ、卒業が怖いんです。いつも言っているのですが、卒業できるようになるようにがんばるって。卒業してもやっていける自信がないから卒業していないだけなんです。卒業できるような人になれるようがんばっています。
ここから先の1~2年でもし卒業できたとして、アイドルという肩書がない自分でどうやって一つ一つの仕事と向き合い、どうやって必要とされていくのか…。これからもアイドルという肩書がなくても必要とされる人間になれるよう、日々を重ねていきたいなと思っています」。(取材・文:編集部 写真:高野広美)
『劇場版・打姫オバカミーコ』は、2月5日全国公開。