水川あさみ、大きな選択だった事務所独立 貫く思いは「常に新しいチャレンジをしたい」

映画
映画『滑走路』水川あさみインタビュー 20200908実施
水川あさみ  クランクイン!

 今年は出演した映画が5作公開となるなど、年齢を重ねるごとにますます女優としての輝きを増している水川あさみ。32歳で命を絶った歌人、萩原慎一郎による歌集を映画化した『滑走路』では、キャリアと結婚生活に不安を抱える女性の“心の叫び”を表現した。10代からスタートさせた女優人生は「選択の連続だった」という彼女だが、「常に新しいことにチャレンジしていきたい」と真摯(しんし)かつ、貪欲に突き進んでいる。そんな中でとりわけ大きな選択だったと明かすのが、「独立と個人事務所の設立」。「“自分でその道を選んだ”という自信があれば、きっと後悔はしない」という清々しい仕事論までを語ってもらった。

■誰もが不安や葛藤、悲しみを抱えて生きている

 萩原慎一郎が、苦難の中に光を見つけながらつづった『歌集 滑走路』をモチーフに、オリジナルストーリーとして映画化した本作。いじめ、非正規雇用、過労、自死など現代を生きる人々が抱える葛藤と、それでもなお希望を求めてもがく姿を鮮烈に描く。

 人生の“痛み”に目を向けた、深い人間ドラマだが、水川は「明るい作品が続いていたときに、本作のお話が舞い込んできた。タイミング的にも『今、これをやれ』と言われているような気がして、ぜひやってみたいと思いました」とオファーを受けた心境を吐露。「誰もが心に不安や葛藤、悲しみを背負いながら生きていると思います。そんな気持ちに寄り添ってくれるような作品になると思いました」と本作に漂う不穏な空気とともに、温かさも感じたという。

 水川が演じるのは、30代後半にさしかかり、切り絵作家としてのキャリアに悩み、子どもを欲しながらも、夫との関係に違和感を感じている女性、翠。「翠は、いろいろな女性の悩みを集約して、代表しているような人物。悩んだり、不安に思っている人たちが共感してくれるような女性として演じられたらと思っていました」と覚悟して、飛び込んだ。

■理想の夫婦像は?「適度な秩序と礼節を持ち、思ったことを言い合えるような夫婦」

 劇中の夫婦については、「日常を過ごす中で、翠は夫に対して、無意識のうちに違和感が積み重なっていってしまう。そういったことは、きっと誰しもに起こりうること」と語る。

 「翠が悩んでいると、夫はいつも『翠はどうしたい?』と尋ねてくれる。それは翠のことを思って、彼なりの優しさから出た言葉だったと思うんです。翠も結婚生活の初めの頃は、夫のそういうところが素敵だと思っていたはず。でもだんだん、翠の中に自我が芽生えてきたり、キャリアを重ねていく中で、夫の言葉も違ったように聞こえてしまったりする。それは夫にも言えることで、同じ意味合いでその言葉を発することができなくなってしまう。少しずつ歯車が狂って、それが大きな溝になってしまう」と2人の関係が静かに壊れていく過程を見つめる。

 映画『喜劇 愛妻物語』では、夫を罵倒する妻を演じた水川。その夫婦像とはまったく異なるものだが、「『喜劇 愛妻物語』の夫婦は、ああなったらもう怖いものはない!というような夫婦(笑)! あんなにコミュニケーションをとっている2人って、いないと思うんです。ある意味、理想の夫婦と言えるのかも」とニッコリ。

 自身の考える理想の夫婦像は、「やっぱり、なんでも言い合える関係がいいとは思います」と話しつつ、「適度な秩序と礼節を持ちながら、思ったことを言い合えるのがベストですね。夫婦とはいえ、マナーを怠ったり、思いやりを失ってしまってはいけないのかなと思っています」と思いやりがポイントのようだ。

■水川あさみの人生最大の決断と潔いモットー「ゼロから始めてみることも必要」

 萩原の遺作である、映画のもととなった歌集には、中高時代に遭ったいじめを起因とする精神不調に悩まされながらも、非正規雇用で働きながら短歌を詠み続けた彼の、悲痛な叫びが詰め込まれている。水川が特に惹(ひ)かれたのは、「自転車のペダル漕ぎつつ選択の連続である人生をゆけ」という歌だという。「人間って、1日の中で何千という選択をしながら生きていると言われていますよね。生きることって、選択することだと思うんです。何を選択するかによって、自分の生きる道が定まっていく。選択をないがしろにすると、沼にハマったような気持ちになることもある」と彼女自身も選択の連続で、ここまで歩んできた。

 その中でも「自分が大きく変わったなと思う」という大きな選択が、2016年に独立し、個人事務所を設立したこと。「人生における大きな選択であり、新たに一歩を踏み出した瞬間でもあります」と振り返るが、「今まで当たり前にやってきてもらったことが、当たり前ではなくなるわけで。もちろん、不安や葛藤もありました」と告白。

 思い切って決断をしたのは、「私は常に新しいチャレンジをしていきたいと思っていて。年齢を重ねるごとに、はっきりとそう思っている部分もあります。それならば、ゼロから何かを始めてみることも必要だと思いました。いろいろなことを知ることも大事だと思いましたし、役者業を好きでい続けるためにも、その道が必要だったのかなって」と打ち明け、「“自分でその道を選んだ”という自信があれば、きっと後悔はしないと思う。もしその道が思い描いていたものと違ったとしても、自分で選んだということが重要」と述べるなど、潔い生き方も魅力的。

 「イメージにない役や、やったことのない役を選んでいきたい」とポジティブで貪欲な姿勢を吐露するが、その原動力は、「こんな自分がいたんだという、発見があることも面白い。今まで求めてもできなかったような役が舞い込んできたときも、とてもうれしいですね。思えば役者って、自分ではない人について真剣に考えて、泣いたり、笑ったりするわけですから。奇妙と言えば、とても奇妙な仕事(笑)。でもすごく面白い仕事だと思います」と役者業が大好きだという思い。「本作では、翠が勇気を出す、力強い一歩を見つめることができました。とても素敵な経験をさせてもらったと思っています」とまた一つ、宝物が増えたことを明かしていた。(取材・文:成田おり枝 写真:高野広美)

 映画『滑走路』は、11月20日公開。

エンタメ最新記事一覧

特集

クランクイン紹介
スゴ得コンテンツ会員登録ボタン
クランクイン紹介
スゴ得コンテンツ会員登録ボタン
クランクイン紹介