ソフィア・コッポラ、型破りな父親像は「父フランシスの世代を参考」――『オン・ザ・ロック』インタビュー

映画
映画『オン・ザ・ロック』
映画『オン・ザ・ロック』のソフィア・コッポラ監督とビル・マーレイ (C)2020 SCIC Intl Photo Courtesy of Apple

 ソフィア・コッポラの新作『オン・ザ・ロック』は、『ロスト・イン・トランスレーション』以来17年ぶりとなるビル・マーレイとのコラボレーション、と聞けば、いやが上にも期待が高まるのは抑えられない。ソフィア自身、「あの映画のビルがとても気に入っているので、その印象を壊したくなかった」と、再タッグに時間が掛かったことを認めているほど。となれば、今回はあの作品に勝るとも劣らぬチャーミングで魅力的なマーレイが拝めるということだろう。本作には、自身のパーソナルな思いも込められているというソフィアに、オンライン・インタビューで、その胸の内を語ってもらった。

■父フランシス・フォード・コッポラの世代を参考にした父親像

 実際、本作のマーレイはまたも我々を驚かせてくれる。世界中を優雅に旅するリッチな往年のプレイボーイという役柄。そんな父とは対照的に、30代後半で仕事と子育て、家庭生活のスランプに陥る娘ローラ(ラシダ・ジョーンズ)とのでこぼこコンビぶりも絶妙だ。

 そもそも破天荒な父と娘のコメディを撮ろうと思ったきっかけを、彼女はこう語る。

 「じつはここ数年、自分が子育てをしながら仕事をいかに両立させていくか、ということを考えていた。と同時に、友だちのなかには、この映画のように夫の忠誠心に疑いを持って、父親と一緒に木陰に隠れて夫をスパイした、という人もいて(笑)、そういう話を聞くうちに、人生のスランプに陥った娘と父のバディ・ムービーを描こうと思いついたの」。

 ある些細な事柄から夫のフェリックスが浮気をしているのではないかと不安を抱いたローラは、その道のプロ(?)として父親の意見を聞こうとする。だが、相変わらず女性に目のない父は、「男の天性は、すべての女を支配し妊娠させたいと思っていることだ」などと嘯(うそぶ)き、愛する娘からのSOSを受け取ると、尾行を提案。真っ赤なスポーツカーに乗ってニューヨークの街を疾走するかと思えば、メキシコの出張先まで追いかける。娘のことを心配するというより、自分が冒険を楽しんでいるように思えなくもない。この型破りな父親を書くにあたって、ソフィアは自分の父親フランシス・フォード・コッポラ監督の世代を参考にしたそうだ。

 「フェリックスみたいな男性って、わたしよりも上の世代にはよく見られたと思う。とくに小さい頃、わたしの父の派手な友だちのなかには彼みたいなタイプの人がいた。フェリックスの発言は前時代的でショッキングだけど、わたしが見聞きしたことも含まれているの。

 ビルがこういう男性を嬉々として演じてくれたことはとても嬉しかったわ。彼はわたしを信頼してこの役に複雑な面を投入してくれた。わたしは彼が孤独なキャラクターを演じた『天才マックスの世界』(1998)が大好きなんだけど、そういう脆さやロマンティックな部分、お茶目なところまで、他の映画では見られないような面を、この役で発揮してもらいたかったの」。

■「女の子の視点から描いた映画を自分で作りたい」

 長編デビュー作の『ヴァージン・スーサイズ』(1999)に始まり、自身の東京滞在体験を反映させた『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)、孤独なアントワネット像を描いた『マリー・アントワネット』(2006)など、これまで独自の視点で女性たちの内面を描いてきたソフィア。幼い頃から偉大な監督である父のセットで育ち、子役として経験を積んできた彼女が、メガホンを握り自分なりの視点で物語を紡ぐきっかけは何だったのだろう。

 「小さい頃から男性的な雰囲気の映画界で育って、男性的な映画も好きな一方で、繊細な映画にも興味があった。でもなかなか自分が観たいと思うような、女の子の視点から描いた作品が少なくて、そういう映画を自分で作りたいと思うようになったのがきっかけね。だから『オン・ザ・ロック』も、ローラの視点から物事を映したいと思った。でもその一方で、ローラと夫ディーンによる見方の違いも意識していたわ。お互い愛していても、考え方や表現が異なるとか。そこから誤解が生まれるのを、往年のスクリューボール・コメディのようにセリフの応酬とテンポの良いリズムでまとめて、リラックスしながら楽しめるような作品を目指したつもり」。

■初めてニューヨークを舞台にした最新作

 本作はまた、ソフィアが現在住むニューヨークの街をカメラに収めた初めての作品だ。これまでニューヨークを撮ることがなかったのは、「ニューヨークを舞台にした素晴らしい作品はたくさんあるし、自分なりの特徴をもたらすにはどうしたらいいだろうと考えていたから」とか。この物語では、フェリックスが案内する映画界ゆかりの有名な「21 Club」や、シックな人気レストラン「Raoul’s」が登場。ニューヨークのヴィヴィッドな息吹を感じるなかで、それとなく観光も楽しめるのが乙だ。

 「今はパンデミックの影響で好きなところに旅行ができなくなっている時代だから、映画で旅ができるのは楽しいだろうと思ったの」。

 思わず吹き出しながらも、気づけば身につまされたり、ほろりとさせられることが散りばめられている。いまや円熟の境地に入ったと言ってもいいソフィアの、ハートフルなコメディを堪能したい。(取材・文:佐藤久理子)

 映画『オン・ザ・ロック』は公開中。

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