映画『クレヨンしんちゃん』が示す、実写×アニメの境界線を超える未来

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『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』
『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』 (C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2020

 新型コロナウイルス感染拡大の影響により、毎年恒例の4月から9月へと公開が延期された『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』。国民的アニメの劇場版が今年も無事公開にこぎつけたとあって、9月12、13日の土日2日間で動員21万2000人、興行収入2億6200万円をあげる好調な滑り出しを見せている。

 28作目となる本作のテーマは、子どもたちのらくがきがエネルギーとなる「ラクガキングダム」。シンエイ動画のプロデューサー・近藤慶一氏(30歳)と、『ラブライブ!』や『宝石の国』の京極尚彦監督(39歳)という、『クレヨンしんちゃん』世代が作る本作は、「原点回帰」を強く意識し、しんのすけ一人を真ん中に据えている。

 そして、その周りにはしんのすけのらくがきから生まれた「二日前のおパンツ=ブリーフ」や、終始無表情で「しんちゃん、好きよ」の一言しか喋らない「ニセななこ」、日和見主義で調子のよい「ぶりぶりざえもん」という新たなキャラクターたちを配置。これらのキャラがそれぞれに笑えて、泣けて、魅力的でありつつも、キャラモノに走るのではなく、ど真ん中に描かれているのは、しんのすけがミラクルクレヨンで春日部を救うという「王道」の物語だ。

■エンタメ性と社会批判を両立させる高田亮の脚本

 『クレヨンしんちゃん』の映画は近年、「大人も泣ける」と言われることが多いが、本作の場合、笑えて、泣けるだけでなく、強く印象に残るのが、「大人」たちの描かれ方である。らくがきのエネルギーを生むため、幼児たちを軟禁して強制的にらくがきさせるという過酷な労働や、他者の批判ばかりして、自分からは何も行動しない大人たち。そればかりか、状況を変えるべく、勇気を出して声をあげ、一生懸命に力を合わせようとする子供たちの邪魔までする。

 子どもたちの夢を描くワクワク感、楽しさの一方で、大人の醜悪な描き方には、ヒリヒリするような社会批判も感じられる。大人としてはなかなか耳も心も痛くなる内容となっているが、それもそのはず、本作の脚本を手掛けているのは、映画『そこのみにて光輝く』(2014年公開)でキネマ旬報ベストテン脚本賞、ヨコハマ映画祭脚本賞を受賞した高田亮。そのほか『さよなら渓谷』『オーバー・フェンス』『婚前特急』などでも知られている。つかみから持って行かれる強さがあるうえ、らくがきの世界である「ラクガキングダム」と地上の世界を並行して描きつつ、春日部パートと、しんのすけ+仲間たちが春日部に救出に向かう「ロードムービー」展開も同時進行していく。

 また、登場人物はかなり多く、子どもと大人の対立構造もありつつ、ど真ん中に据えられた物語はシンプルで、子どもたちにも分かりやすい。これは、コミカルも、シリアスも、骨太な脚本も書ける高田の実写畑で培ってきた実績に、近藤プロデューサーが着目し実現したものだ。

 SNSにも脚本に注目する声は多く、「そこのみにて光輝くの高田亮脚本 二日前のおパンツブリーフとにせななこに、こんなに感動させられるとは!」「つかみからハッとするし、多数のキャラクターの動かし方も上手いなと感心してたら、大人の描写がエグいほど醜悪でさすが高田亮脚本と唸らされました」「高田亮さん、『さよなら渓谷』『そこのみにて光輝く』『オーバーフェンス』に次いで、既存アニメの脚本書かせても天下一品なのって才能に溢れすぎでしょ。。。」などのコメントが見られる。

■岩井俊二、古沢良太、野木亜紀子…アニメーションに進出する実写の一流たち

 実は近年、実写の脚本家、それも一流どころの脚本家がアニメーションに進出する機会が増えている。例えば、映画監督・映像作家・脚本家の岩井俊二は、『花とアリス殺人事件』(2015年公開)で監督・製作・企画・プロデュース・原作・脚本・音楽等に至るまで全てを手掛け、新たな岩井俊二ワールドを提示してみせた。

 また、古沢良太はドラマと映画で『コンフィデンスマンJP』シリーズを描きつつも、同時期に(執筆時期はもっと前だった)アニメーションでコンゲーム(信用詐欺)を題材とした『GREAT PRETENDER』(2020年)の脚本・シリーズ構成を手掛けている。

 『GREAT PRETENDER』の場合、『コンフィデンスマンJP』と題材が同じで、マフィアや詐欺、麻薬、賭博、売春などの裏社会が描かれている作品だ。しかし、古沢ならではの一人一人のキャラの背景の掘り下げ方の深さと、二転三転する展開の巧みさ、エンタメ性の高さ、さらに『新世紀エヴァンゲリオン』の貞本義行によるキャラクターデザイン、『進撃の巨人』で知られるWIT STUDIOの制作による色彩の強さ・鮮やかさが組み合わされることで、見事な化学反応となり、独特な色気を放つ大人のアニメーションになっている。

 また、2021年に公開が予定されているアニメーション映画『犬王』では、古川日出男の著書『平家物語 犬王の巻』を湯浅政明監督がアニメ化し、キャラクター原案は湯浅監督がテレビアニメ化した漫画『ピンポン』の作者・松本大洋が担当。さらに脚本は、『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』『MIU404』など、今、最も売れっ子で、緻密な構成力が評価される脚本家・野木亜紀子が手掛ける。湯浅政明×松本大洋×野木亜紀子という名前の並びが放つワクワク感はすごい。

 逆に、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』などをはじめとした、多数のアニメ作品の原作・脚本やシリーズ構成で知られる岡田麿里は、2017年頃から実写作品の脚本も手掛けており、現在も、原作・脚本を手掛けたドラマ『荒ぶる季節の乙女どもよ。』(MBS・TBS系)が放送中で、山田杏奈、玉城ティナ、横田真悠ら旬の女優たちをそろえ、瑞々しくも、ちょっと痛く、美しい作品となっている。

 実写畑の脚本家が手掛ける脚本は、「カロリーが高くなる」(作画等の手間がかかる)など、勝手の違う部分はいろいろあるようだし、逆もクリアしなければいけないノウハウの違いがあるだろう。しかし、特殊なジャンルは除き、人間ドラマを描くことに対して、「アニメーション」「実写」という分野によって棲み分けされているのは、考えてみればちょっとナンセンスな気もする。

 映画版『クレヨンしんちゃん』や、『コンフィデンスマンJP』『GREAT PRETENDER』は、そうした境界線を越えることで生み出される新たな化学反応を示し、これからの作品のあり方の可能性を大きく広げるきっかけになるのではないだろうか。(文:田幸和歌子)

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