中田秀夫監督、“恐ポップ”で新境地開拓! 『事故物件 恐い間取り』『恐怖新聞』にSNSにぎわう

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映画『事故物件 恐い間取り』
映画『事故物件 恐い間取り』メインビジュアル (C)2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会

 事故物件、恐るべし。8月28日に封切られた中田秀夫監督、亀梨和也主演の映画『事故物件 恐い間取り』は平日の公開初日で興収1億円を突破。週末の3日間で34万人以上を動員し、4億6000万円超えの大ヒット。興行収入ランキング第1位を獲得する好スタートを切った。その勢いは翌週も衰えず、映画観客動員ランキングで堂々のV2を達成。公開から10日間で10億円を上回る興収をあげ、快進撃を続けている。さらに、現在放送中のドラマ『恐怖新聞』も第1話のオンエア直後から話題騒然。ツイッターでトレンド入りを果たすなど、SNSを中心に中田監督が仕掛ける“恐ポップ”が新たなムーブメントを起こそうとしている。

◆コワいけど面白い! みんなで語りたくなる“恐ポップ”の魅力

 『事故物件 恐い間取り』は“事故物件住みます芸人”こと、松原タニシのノンフィクションを原作に、亀梨ふんする芸人ヤマメが殺人や自殺が起きた「曰くつき物件」を渡り歩き、さまざまな怪異と出会う物語。この劇中、ヤマメのサイン会が行われる場面で「タスケテ」と謎の声が聞こえると話題になり、劇場に再び駆けつけるリピーターも増えている。SNSに投稿される感想も日々、アップデートされて白熱している。

 『事故物件』の魅力をひとことで言い表すなら、中田監督自身が“恐ポップ”と命名した新感覚の面白さ。『ザ・リング2』(2005)でハリウッドでの映画作りを経験し、和洋それぞれのホラーな感覚に触れた監督が、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017)に触発されて挑んだ「恐いけど、なぜか笑える」不思議な爽快感。じめっと恐怖が後をひく従来のJホラーとは異なる突き抜けたエンタメ感が、積極的にホラーを楽しみたい若い世代を中心に大いにウケている。映画『スマホを落としただけなのに』シリーズや、ドラマ『リモートで殺される』(2020)など、タイトルだけで“いま”を感じさせる恐怖を描いてきた中田監督ならではの狙いが見事に的中したかたちだ。

 関西芸人の世界を舞台にした『事故物件』では、主人公ヤマメを巡る友情や恋、仕事仲間との掛け合いが生み出す独特な笑いの空気が“恐ポップ”に貢献していることは確かだが、それ以外にも典型的なJホラーとは異なる「恐さ」を探るユニークな作劇がいくつもある。

 ひとつは、今までなら「動く心霊写真」に直面したような鳥肌感覚を追求し、人間らしさを極力削ぎ落して演出してきた幽霊像を、堂々と肉体の質感を感じさせる役者が演じていること。

 ふたつめは、そんな幽霊が出現したときに、対処できるワケ知りの達人が登場すること。彼らは常に陽気なキャラクターで、コミックリリーフの役割を果たす。本作では笑顔で事故物件を次々と紹介し、ピンチのときには小籠包を頬張りながら秘策を授ける不動産屋(江口のりこ)、そして、通りすがりにヤマメの死相を読み取り、お守りを売りつけて風のように去る謎の宮司(高田純次)が存在感たっぷりに笑いを誘う。

 最後はボスキャラとして登場する死神との戦い。ここはまさに中田監督が志向するハリウッドホラー的な「仲間と協力して怪物を倒す」ド派手なクライマックス。お線香の火花が怪光線となって飛び交うスペクタクルな除霊バトルは、中田監督の出世作『リング』(1998)でクスリとも笑わせない問答無用の恐さに震え上がった古参ファンを仰天させ、若い観客たちはメガネキャラを含めた男女3人組の主人公の死闘に「これは『ハリー・ポッター』へのオマージュか? それともまさかの『スター・ウォーズ』か?」と大興奮。

 一方で、“恐ポップ”を追求しつつ、陰惨なJホラー的演出がしたたかに残されているのもミソ。ヤマメたちを霊の世界に招き寄せる赤い女、家庭内暴力を受けた老婆の死霊、首吊りロフトのエピソードなど、ゾッとする本格的な恐怖描写が要所に配置され、スパイスとしてピリッと物語を引き締める。その結果、『事故物件』はエンタメ指数高めで、恐すぎず、しかも満足感があり、あれこれとSNSで感想を語り合える、旨味たっぷりの楽しい作品になった。

◆さらなる“恐ポップ”の進化を目指す『恐怖新聞』!

 中田監督は現在放送中のテレビドラマ『恐怖新聞』で、さらに“恐ポップ”に磨きをかける。原作は恐ろしさのあまり、昭和の子どもたちを不眠地獄に追い込んだつのだじろうの名作恐怖漫画だが、こちらも中田流の現代風アレンジが見どころ。

 一人暮らしを始めた詩弦(白石聖)の部屋に、深夜零時に激しいノックの音と共に投函される謎の新聞。そこにはこれから起こる惨劇と、被害者の死が予言されていた。やがて、紙面に詩弦の父(横田栄司)の死を告げる記事が…(第1話より)。

 視聴者を飽きさせない怒とうの展開がテレビドラマの肝だが、今回の『恐怖新聞』は起承転結の「承」をあえて飛ばして描いている印象がある。映画であれば「不気味な怪現象が続く」→「なぜだろうと独り思い悩む」→「実は呪われていたことが判明」→「しかも、それは肉親の仕業だった」という展開をとり、「なぜだろうと悩む」=「承」の部分で想像を巡らす時間を設け、じんわりと恐怖感を出すが、そこを描き飛ばすことで視聴者の先読みをコントロールし、中毒性のあるスピード感とある種のポップさを醸成している。

 第1話では、ヒロインの詩弦が親しくなったバイト先の先輩(佐藤大樹)と突然“濃厚キス”を交わす場面があり、母(黒木瞳)との気のおけない親子の会話中にも、いきなり「お父さんは前世でロクな死に方をしていない」と厭(いや)なセリフが差し込まれ、ギョッとさせられる。これも本来なら「承」の部分で平穏に話を進める構成に、あえて違和感を感じさせる要素を投入。ついツッコミを入れたくなる不穏な空気感を出し、“恐ポップ”な演出を狙っているのではないだろうか。

 超自然的な「恐怖新聞」の怪異と、それに浸食されてゆく「人間たちの恐さ」は、中田監督が『リング』シリーズの最新章『貞子』(2019)で用いた「呪いの震源地となる貞子」と「その呪いに触れてしまった被害者の狂気」を表裏一体に描く展開を連想させる。

 『恐怖新聞』では第1話から「笑顔で落下してくる飛び降り自殺の女子高生と目が合う」など、中田監督の十八番であるショッキングなキラーショットが連打されるが、一番の話題をさらったのはオカルトホラーの金字塔『オーメン』(1976)をモチーフにした串刺し惨死シーンだ。SNS上では早速、「いや、あれはアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(1995)に登場する謎の武器、ロンギヌスの槍だ!」と我流の解釈がにぎやかに飛び交っている。

 ロンギヌスの槍は元々「十字架に磔にされたキリストの生死を確認すべく、わき腹を刺したとされる槍」なので、反キリストの誕生をテーマにした『オーメン』との縁も深く、どちらが元ネタであっても構わないのだが、おかげで『恐怖新聞』の第1話はツイッターでトレンド入りを果たし、改めて“恐ポップ”はSNSとの親和性が高いことを証明した。

 「恐さ」を描くためには緊張感を積み上げることが大事。一方で「笑い」はそれを突き崩すことだ。恐さと笑いは紙一重ではあるがゆえに、そのバランス感覚、演出のさじ加減は難しい。“恐ポップ”で難易度の高い新境地に挑んだ中田監督。その進化の先がとても楽しみだ。(文・山崎圭司)

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