香取慎吾、白石和彌監督との“共鳴”を明かすも「お芝居は嫌いですね(笑)」

映画
映画『凪待ち』香取慎吾、白石和彌監督インタビュー 201906
映画『凪待ち』白石和彌監督&香取慎吾インタビュー  クランクイン!

 香取慎吾の新たなスタートにして、ひとつの到達点ーーそう言える映画が誕生した。香取にとって『ギャラクシー街道』以来の単独主演映画であり、『孤狼の血』、『麻雀放浪記2020』など、次々と話題作を発表している白石和彌が監督を務めた『凪待ち』。白石監督だからこそ引き出せた、見たことのない香取の表情、香取だからこそ表現できた、これまでの白石作品にはなかった主人公の姿がスクリーンに映し出される。

 本作で香取が演じるのは、酒と競輪に溺れ、無為な日を過ごす“ろくでなし”という言葉がぴったりの男・郁男。恋人の亜弓(西田尚美)と共に、彼女の故郷・石巻で再出発を図るが、その矢先に亜弓は何者かに殺害されてしまい、郁男は絶望から自暴自棄に陥っていく。

 堕ちて、また堕ちて…周囲から救いの手を差し伸べられるが、そのたびに優しさや期待を裏切り続けていく最低な男ーー。香取は「『ホントにひどいヤツだな!』という気持ちを、グッと抑えながら演じていた」と明かすが、では、郁男と自身の間に全く共通点がなかったかというと、そうではない。それは、郁男を演じる上で、軸として一貫して意識していた「逃げる」という要素だという。

 「いままでやってきた役で、あまり見せることができなかった部分ですけど、やっぱり僕の中にも『逃げる』とか苦悩、『つらい』という思いはあります。ただ郁男はそれが人一倍強いんですよね」。

 そんな香取の演技に白石監督は「衝撃を受けた」という。特に圧倒されたのが、自暴自棄の郁男が、亜弓の死亡現場に足を運び、ビールを供えるシーン。「どうしようもなくなって、置いたはずのビールを飲み始める。そのときの表情なんて、こっちが説明してできるもんじゃないんですよね。あれを撮ったときはゾクゾクしました。『あぁ、これから大変な嵐が訪れるな…』って」。

 ちなみに、ビールに手を伸ばすというのは、台本には書かれていない描写で、監督が現場で付け加えた。香取もこのシーンの撮影は忘れられないようで「あの演出は僕もしびれましたねぇ…。あそこは飲んじゃダメでしょ(苦笑)! でも、飲んじゃう悲しさもあって…。それで何かが解消されるのではなく、さらに(苦しさが)増していくんです」と白石監督との“共鳴”をうれしそうに振り返る。

 白石監督の『凶悪』、『日本で一番悪い奴ら』、『孤狼の血』といった作品では、一線を越えて悪に手を染めた者たちやそこに対峙する人々が魅力的に描かれているが、本作の郁男は、あくまでも愛する人を失った被害者の側の人間であり、愚かではあるが、決して“悪”ではない。

 白石監督は「その違いはずっと感じていました。法を犯したダメなやつ、加害者を撮る方がずっと楽ですね。被害者の心の救済…、『凪待ち』というタイトルですが、何をもって凪と言えるのか? 答えが出ない苦しさがあった」と振り返る。白か黒かで描くことのできない人物像、その苦悩、そこから這い上がっていく姿を繊細に表現しうる俳優として、白石監督が選び、託したのが香取だったのだ。

 そんな最大限の賛辞をよそに、香取は「お芝居は嫌いですね(笑)。最近はあまりハッキリ言わず『苦手な分野』と言うようにしてますけど」とあっけらかんと語る。それでも、俳優を続ける理由は何か?「昔からよく、草なぎ(剛)と互いの出演作を見て『あのシーン、演じてて気持ちよかったでしょ?』とか話すんですけど、ボロボロで泣き叫んだり、実生活ではできない感情の表現を役の上でできるんですよね。それがあるから、苦手でもやめないんだと思います」。(取材・文: 黒豆直樹 写真:高野広美)

 映画『凪待ち』は全国公開中。

エンタメ最新記事一覧

特集

クランクイン紹介
スゴ得コンテンツ会員登録ボタン
クランクイン紹介
スゴ得コンテンツ会員登録ボタン
クランクイン紹介