『モンテ・クリスト伯』『やけ弁』 岸井ゆきの、“天性の女優”の魅力

エンタメ
岸井ゆきの
映画・ドラマに引っ張りだこの岸井ゆきの  クランクイン!

 『モンテ・クリスト伯‐華麗なる復讐‐』(フジテレビ系/毎週木曜22時)が、中盤にかけてじわじわと緩やかに評価を上げてきている。その理由の一つに、高杉真宙、葉山奨之、尾上寛之など、途中から重要ポジションとして登場してきた若手俳優たちの存在感があると思う。若手に演技派をそろえたことで、作品にグンと厚みが加わった印象がある。岸井ゆきのも、その信頼感の一角を担っている一人だ。

 同作で岸井は、ディーン・フジオカ演じるモンテ・クリスト・真海の復讐のターゲットの一人、入間公平(高橋克典)の娘・未蘭を演じている。実母が死ぬ直前に遺した「お父さんは弱い人間だから、あなたが助けてあげて」という言葉に縛られ、従順な娘として育つも、義母と弟に気遣い、息が詰まるような日々を送っているという役柄だ。やがて高杉演じる守尾とロミオとジュリエットのような悲恋に落ちるが…。

 どんどんドロドロのエグい展開になっていく同作の中で、岸井と高杉の二人のシーンは、儚くも美しい清涼剤となっている。また、岸井は現在、『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』(NHK総合/毎週土曜20時15分)で新任教員・望月詩織を演じてもいる。娘が体罰を受けたと主張するモンスターペアレント(堀内敬子)に気おされ、生徒たちに完全にナメられ、疲弊した様子のリアルさに、自分自身の学生時代の教室風景を思い出してしまった人もいるかもしれない。生徒にからかわれ、泣いてしまったり、キレてしまったりする若い女の先生って、ときどきいたっけな……などと考えながら。

 しかし、感情が高ぶり、キレるかと思った際どい瞬間、望月先生は生徒を真っすぐ見つめ、強い言葉で諭す。頼りなく見えていた先生の教育に対する熱い思いや、生徒への思いやり、芯の強さに気づかされる場面だ。そして、弱いと思い、ナメきっていた先生の思いがけない迫力に恐れを感じ、見直す場面でもある。この先生の弱さと強さ、回を追うごとにうつむき加減だった顔が上を向いていく変化が、実にリアルで、ホンモノの新任教員のように見えてくる。

 ところで、岸井はネット上で、乃木坂46の人気メンバー・西野七瀬や、きゃりーぱみゅぱみゅ、菅野美穂など、様々な人に「似ている」とよく言われている。実はドラマや映画、CM、MVなど、かなり多数の作品に出ているにもかかわらず、まだまだ知名度は高いとはいえない。それは、150センチ以下の小柄な体、大きな特徴のない薄顔が、与えられた役によってドキッとするほど妖艶に見えたかと思えば地味に見えたり、聡明に見えたり、ヘンなヤツに見えたりと、その都度印象をクルクル変えてくるからだろう。

 『レンタルの恋』(TBS系)では、剛力彩芽に惚れる太賀の幼なじみで、恋心を抱く少女を演じ、『99.9‐刑事専門弁護士‐』(TBS系)では松本潤にいつもウザがらみするヘンな女を演じていた。NHK大河ドラマ『真田丸』では、真田信繁の3人目の妻・たかを賢く演じていた。ルソン帰りの帰国子女のカタコト具合もほどよく、俯瞰で全体を見る聡明さも同居していた。就職活動に励む女子大生を演じた「東京ガス」のCMでは、悲しい結末とリアルすぎる演技に「心が痛む」と苦情が殺到。放送中止になってしまったこともある。

 さらに2015年の映画『友だちのパパが好き』で、自分の父親を好きという友人と、翻弄される父親との間にはさまれ、両者を冷たく「変態」と罵っていたのも彼女。映画『散歩する侵略者』のスピンオフドラマ『予兆 散歩する侵略者』(WOWOW)では「家族」の概念を侵略者に奪われ、実の父親に得体のしれない恐怖を抱く難役を怪演。『下北沢ダイハード』では劇場に住みついている幽霊を演じた。そして、昨年公開の初主演映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』では、第39回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞し、着実にその実力を評価されてきている。

 月9でも大河でもサブカル映画でも、硬軟問わずにその作品のカラーに染まり、演技の温度も冷水から熱湯まで瞬時に変化させてみせる天性の女優。名バイプレイヤーと言われる人には、どの作品においても強烈なアクセントになるタイプと、「自分」を消してどこにでも染まるタイプとがいるが、岸井は間違いなく後者の方。だからこそ、どの役もホンモノに見える。役ごとの印象は非常に強いのに「顔」は覚えにくい、とらえどころのない稀有(けう)な若手実力派女優だ。(文:田幸和歌子)

エンタメ最新記事一覧

特集

クランクイン紹介
スゴ得コンテンツ会員登録ボタン
クランクイン紹介
スゴ得コンテンツ会員登録ボタン
クランクイン紹介